読むと無性に働きたくなるマンガ――安野モヨコ「働きマン」
マンガには二通りある。
「一度読んだら終わり」のマンガと、
「何度でも読み返せる」マンガである。
- 作者: 安野モヨコ
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2004/11/22
- メディア: コミック
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「働きマン」は私にとって、後者だ。
既に何度も読み返しているが、そのたびに
「ああーー働きたい!!」
と思う。
(だったらもっと働けよ、というツッコミはさておき)
週刊誌の女性編集者・松方弘子は
周囲から「働きマン」と呼ばれるくらい仕事をこなす。
ここぞという場面で「男スイッチが入る」状態になり、普段の3倍の速さで働くのである。
彼女の職場での奮闘と、気づきが、
コミカルとシリアスを絶妙に織り交ぜたストーリィで描かれた作品。
弘子が勤める「週刊JIDAI」の編集部には様々な人間がいる。
たとえば世間知らずで傲慢な新人、田中。
いわゆる「チャラそうな」風貌の彼は、自分の記事を任されたときこう言った。
「まあわりとネットで意見集めて、過去の記事と比較とか……多分できちゃうかなって。夜は仕事しない主義なんで、それ以外の時間だったら……」
それを耳にした弘子は田中を一喝する。
「若いのに、楽な仕事してんじゃねえよ!」
何故だか、私はこれが自分に言われたかのような錯覚を覚えた。
この後、週刊JIDAIが校了(印刷物を刊行する前の最終チェックをする、出版業で最も忙しい段階)になる。
そこで「働きマン」になって周囲を圧倒する弘子とは対照的に田中は、
「…………フム。昔のページをベースにした、ソツない出来で文句はないが
全部松方が過去にやった記事だな――元になってるの……」
とデスクに言われている。
その後田中の独白が入り、彼はこう語っている。
「オレは『仕事しかない人生だった』、そんなふうに思って死ぬのはごめんですね」
そこにモノローグが挿入される(誰の? 作者か弘子のどちらかだが、私は作者だと思う)。
「それもある それも多分あって 確かにそのとおり でも」
さらに弘子の独白が続く。
「あたしは、仕事したな――って思って、死にたい」
この1シーンに、この漫画のエッセンスが集約されていると思う。
はや10回以上これを読み返しているけれど、何度見ても気持ちが奮い立つ。
ああ、働きたい!
■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■ ■
p.s. 弘子の彼氏・新二も印象的な人物だ。
大手建設会社で現場監督をしている彼は、表向きはソツなく仕事をこなしながら、
常に自分の仕事に対して疑問を拭えないでいる。
「俺は何をしたいんだろう 何がしたくてここにいるんだろう
この仕事の何が好きと言えるだろう どこをつくったと言えるだろう」
そう悩んでいると、突然営業への異動を告げられた。
それは「現場監督の仕事は終わりですよ」という宣言に等しい。
「あれ……? 俺、なんか……動揺してねえか」
今までとは打って変わって熱心に仕事を手伝いながら、彼はこう独白する。
「なんかな――こんなふうに後悔すんなら もっとちゃんとやっときゃよかったな
俺はなんであんなに考え込んでたんだろう 『この仕事のどこが好きか』なんて
考えてるヒマがあったら どんどんやりゃよかったよ 今になってやっても遅えよ」
ここを読むたびに、私は全身を弥立たせながら、思うのだ。
目の前の仕事を、好きになろう。