火坂雅志「名将の品格」



このタイトル、下品だな。まぁた「品格」かよ――というのが
最初の印象だったけれど、読んでみるとなかなか面白かった。



大河ドラマ天地人」の原作者・火坂雅志が、自身の作家半生と、
彼なりの「名将」に対する価値観をつづった本である。



まがいなりにも小説を書いている人間として、
感銘を受けたのが、次の個所だ。



歴史小説を書くうえで、このとき(引用者注:デビュー作執筆時)に私がつかんだ大きなポイントがあります。
 それは、
――できるだけ深く掘って、できるだけ高く飛ばすということです。でないと、歴史小説は面白くならないのです。
「深く掘る」というのは、可能な限り調べるということです。資料や調査による裏づけが多ければ多いほど、小説に深みと重みが出ます。もちろん、実際に書くときは「氷山の一角」しか出しませんが、水面下にある部分は、大きければ大きいほどいい。
 それでいて、いつまでも地べたを這っていてはいけなくて、どこかでポーンと踏み切って、大きく飛ばなければいけないのです。離陸できていない小説ほどつまらないものはありません。しかし、資料性にこだわるほど離陸が困難になるのも事実で、このあたりは、まさに矛盾です。」(28-29頁)



そうなんだよね。



これは歴史小説に限らず、日常を描いた一般の作品にも言えることで。
登場人物の設定はなるべく細かく、でもストーリーは飛躍させて突き抜けさせる。
――実践するのはなかなか難しいけれど。



さて、これは一章の内容であるけど、
続く六つの章では、タイトル然り、彼の歴史観について書かれている。



天地人を読むなり、ドラマを見るなりしている人は、ぜひとも目を通してみるべき。
少なくとも私は、読んでいてワクワクした。



織田信長上杉謙信直江兼続徳川家康などを引き合いに出して、
「名将に必要たるは何ぞや」という考察がされている。



ガチガチの戦国歴史オタクの人は「浅い」と言うかもしれないが(というかそもそも、そういう人はこのタイトルで買わないだろう)、
日本史の知識が受験勉強レベルの私のとっては、そこに「人間」のダイナミズムを感じる、実に興味深い話に感じられた。



とりあえず、歴史系の作品が好きな人なら、
天地人とこの本、見て損はないと思う。