カーペットは凶器


ホットカーペット。それは、人間にとって一種の凶器である。
「寒い」という人間の感覚的苦痛につけ込む形で自らを起動させ、
その場に居る人間を永久(とこしえ)の眠りへと誘う。



もはや、ある種の闇魔法と言っても過言ではない。
そこに居るだけで、否応なしに眠りへと陥ってしまうからだ。



そもそも、「床を温める」という行為が悪辣である。
暖房というものは、往々にして効果が薄い。



暖かい空気は上に、冷たい空気は下に行くのだから、それは自明のことだけど、
とにかく効果が出るまでに相応のラグが発生する。



カーペットはそれを覆す。
何せ「床そのものを暖める」のだから、話が早いではないか。



さらに、そこに敷布団を敷いておけば、
床と敷布団との間に名状しがたい熱空間が生まれる。



片足を突っ込んだが最後。
超時間睡眠という、天国の顔をした地獄へと引きずりこまれる他ない。



私は今年度、カーペットというものを一度も点けてこなかった。
だがしかし昨日、部屋の寒さに耐えきれず、つい起動してしまった。
大変だ。



改めて気付いたことだが、カーペットの真に恐ろしい所は、
一度点けたが最後、<点けていない生活>という発想を脳裏から消し去ってしまう
という点にあるのではないだろうか。



本当、常に点けていたくなるのだ。
独り暮らしで、まだ点けずに過ごしてきた方。
気を付けてください。



私はもう、引き返せません。