年収3500万円でもやりたくない仕事を描く――なかお白亜「麻酔科医ハナ」
年収3500万円で麻酔科医を急募――このニュースを覚えているだろうか。
大阪府の民間病院が、激務などを理由に一斉退職する麻酔科後任を確保するために、最高で年3500万円の報酬を雇用条件に提示したのである(すると厳密には「年収⇒年俸」になるのか)。
破格の年俸にばかり目を向けられがちだったが、
それほど払わなければならない理由とは何だろう。
すなわち、なぜその病院で麻酔科医が一斉退職したのか。
――その理由が描かれた漫画が「麻酔科医ハナ」である。
- 作者: なかお白亜,松本克平
- 出版社/メーカー: 双葉社
- 発売日: 2008/06/28
- メディア: コミック
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舞台は大学病院の麻酔科。
一般的な民間病院よりも遥かに激務だ。
激務ゆえ人出不足、人手不足ゆえ激務の悪循環がここにある。
そこに勤める麻酔科医・華岡ハナ子の日常を描いた作品。
作画のテイストはいささかポップで、
どちらかというと「かわいい」系の画風に属する。
構成的にもコミカルな場面が目立つ作風なのだけれど、
この作品の確信は、やはり「麻酔科医の仕事」を描いたシリアスな場面にある。
麻酔科医の役割は「手術の前に麻酔をしてハイ終わり」ではなく、
オペ全体に目を配りながら手術の最後まで見届け、不測の緊急事態にはサポートをする。
いわば「縁の下の力持ち」的な要素が強い。
しかし外科をはじめ他の課からは見下げられる傾向にあり、
「早くしろ麻酔科」、「これだから麻酔科医は」などの罵声を浴びることもしばしば。
そのうえ1日15時間労働で、貫徹することも珍しくない。
これでは早期退職者が多いのも合点がいく。
しかし、ハナ子や同僚たちは麻酔科医を辞めない。
むしろ、その仕事に誇りを持っている。
患者に感謝されるわけでもない(全身麻酔の瞬間に見る麻酔科医の顔は、自然と忘れてしまう)し、
外科に褒められることもない、「100%できて当たり前」の仕事。
しかし、麻酔科医がいないと手術は機能しないのだ。
そんな麻酔科医として、時に傷つき悩みながらも
前向きに成長していくハナ子を見ていると考えさせられる。
――なんのために、働くのか。
自分がわざわざこの仕事をしている意味は?
そんなもの、存在すらしないのかもしれない。
自分の代わりなどいくらでもいる。
それでも、
「自分がやらないで、誰がやるんだ」
と思えるから、人は働くのではないだろうか。
麻酔科医の皆さん、お疲れ様です。
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